雑談の意義

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    ◆  しばらくして、上村先輩が休憩室にやってきた。  「横山のマシンの開発環境だけどさ、参照してるクラス、更新前のバージョンになってたよ。バージョン上げたらうまく動いた」  え? 「ありゃりゃ」と木崎さん。 「開発用のバージョン上がってたの、聞いてなかったっけ?」と、上村先輩。 「あ、はい……ちょっと覚えが……」 「あー、ごめんごめん! 俺だ」  そう言って苦笑したのは、木崎さんだった。 「ほれ、上村。そのバージョンアップの話したのってさ?」 「あ、そういや、ここでしたね」と上村先輩。  あれ? じゃあ、俺には知りようが無いのでは……。 「ごめん横山。こないだここで、木崎さんと、尺友里恵のバージョンの話してた時に、ついでに話が出たんだわ」  尺?  そんな表情が、俺の顔にこびりついていたらしい。木崎さんが追加説明してくれた。 「毎年毎年、顔の造形が変わる謎の女優、尺友里恵の話してたの。今年は左右対象性が上がったなって」  なんですかそれ。 「まあ、そういうこともあるってことよ。その場にいることが大事。あ、尺の顔の話じゃないぞ?」  木崎さんが、笑いながら、強引にまとめた。  「何の話です?」と、きょとんとした表情で上村先輩。 「いやね、雑談も、仕事には大事だから、横山も混ざった方が良いよねって話」 「そんな話してたんすか。でもこいつ、タバコ苦手ですよ」 「それで来ないのか。じゃあさ横山、なんか他に無いの? タバコじゃなくても、コーヒーとか、テキトーに雑談しながらここで出来る、好きなもの」 「そうですね……モンスターハンターですかね」 『いや、業務中にそれはダメだろ!』  木崎さんと上村先輩の声がハモる。  いや、良いと思うんだけどなあ。ひと狩りしながらの雑談。ニコチン中毒にも、カフェイン中毒にもならないし。  ……あ、廃人になるか。        <了>
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