煙草は思いで

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 煙のいく先を見つめている。  ゆらゆらと揺れて、いつの間にか消えていく。それをただ眺めている。俺はこれが好きだったりする。煙草を吸って、半分ほど燃えるのをじっと眺める。ちゃんとしたスモーカー達に見られたら怒られてしまいそうな楽しみ方だが、誰も俺に気づかない。誰も彼も、自分のことで夢中だ。  実は俺、そもそも煙草が好きなわけではない。もう癖みたいになってしまってずっと吸っているだけだ。煙草を吸っていれば、仕事も抜けだせるし、体には悪くても良いことはある。だから、止めようとは思っていない。仕事を数時間ずっとやっているなんて、まっぴらだし、ぼおっとするのに煙草は最適なんだ。  現実逃避にも最適だ。  会社近くの喫茶店。昼休みも半分が過ぎた。後もう少ししたら行かないといけない。仕事したくない。だけどしなくちゃいけない。鬱になる前に、煙草を吸うんだ。煙が頭にしみ込んで、諦めを引き出してくれるように。 「ふううう……」  口から出る煙は、目の前の虚空にすぐ消える。その煙に、懐かしい顔を見た。  思いだす、煙草を始めた理由。とてもガキらしい、バカな理由。 「あれ、ヒロ?」  煙の中に人の顔が現れるはずもなく、それは本当、偶然の再会。 「そうだけど」 「うわあ、なっつかしい! 何してんのこんなとこで」  つかつかと珈琲を持って近づいてきて、躊躇いなく俺の前に座った。  わざとゆっくり吸って、天井に向かって煙を吐く。 「喫茶店で煙草吸っとるよ」 「相変わらず捻くれ者め」 「そりゃどーも」 「ねえ、わたしのこと、わかる?」 「今さらだね。ルミ」 「うわー、なんかショック」 「なんでだよ」 「いや、結構色んな人に変わったって言われるんだよ。髪型も変えたし、化粧も覚えたし、何より美人になったしね」 「はー煙草うめー」 「おい」  懐かしいやり取りに、思わず笑ってしまう。  八年ぶりくらいだっていうのに、余所余所しさなんてないし、懐かしいと言いながらもこれがいつも通りだとお互い分かっている。  ルミが珈琲を一口飲んで、俺の手を指差してきた。 「ヒロ、煙草吸うんだね」 「まあね」 「あの真面目くんがねえ」 「俺が真面目だったんじゃなくて、ルミが不真面目だっただけだろ」 「不真面目じゃないし。やりたいことに一生懸命で勉強してなかっただけだし」 「学校じゃ勉強しない奴を不真面目っていうんだよ」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!