二つのコップ

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二つのコップ

 喫茶店で席についたら、店員が水を二つ持って来た。  俺は一人での来店だし、近いタイミングで店に入った客もいない。  何の間違いだろうと思ったが、水を置かれただけだから、わざわざ言う気が起きなくて放置した。  そして会計時。当然だが何も言われない。だから水が二つ置かれたのは、単純なミスだと信じた。  でもそれ以来、セルフサービス以外は、どこに行ってもテーブルに二人分の水が運ばれるようになったのだ。  どこのどんな飲食店へ入っても、一人の時は必ず水を二つ出される。 「あの、俺、一人で来てるんですけど?」  思いあまってある時そう言ったら、店員は凄まじく怪訝な顔をした。どう見ても、二人連れで来ているのに、片方がそれを否定しようとしている場面に出くわした…そんな態度だ。  考えたくないが、もしや、本当に誰かいるのか? 俺以外の人間にはその姿が見えているのか?  それならいっそ出て来い。俺にもその姿を見せろ。そうすれば納得してやる。  そう思った瞬間、二つ置かれたコップの片方がガタガタと揺れた。  反射で視線を向けると、ガラスに人影らしきものが映っているのが見えた。けれどテーブルには俺しかいないし、周辺にも人の姿はない。  本当に、いた、のか。でも、いてほしくないのだが。 「あの、俺、飲食は一人でゆっくり派なので、ご一緒は遠慮させて頂きたいのですが…」  自分でも何を口走っているのかと思う。それでも奇妙な断りの語を口にして、俺は入れ違いに運ばれてきたコーヒーを飲み干し、店を後にした。  でも、どうやらそれが功を奏したらしい。  この発言以来、運ばれて来る水が一つに戻ったのだ。  俺に憑りついていた何かはいなくなってくれたらしい。そう、安堵したのも束の間だった。  メール着信に内容を確認する。アドレスは非通知。…内容は。  食べ終わるまで外で待っています  俺には見えないどこかの誰かさんは、俺の発言の内容に、店にどうこうすることは遠慮してくれるようになったけれど、外で待ってはいるらしい。  さて、怒らせたら絶対ヤバいので、もうこれ以上つきまとわずにいて下さいと、どう上手く言い回そうか。…弱った。 二つのコップ…完
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