終の章

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――――1999年7月31日。 東京都杉並区に並ぶ一軒のリビングで、女の啜り泣く声が響いていた。 感情のままに嗚咽し続ける女の腕の中には、生後間もない赤子が抱かれている。 赤子は焦点の定まらない目でその女の顔を見上げ、指をしゃぶっていた。 「この子だけは絶対に守る……。和也だけじゃなく、悟まで失うなんて……私には耐えられない!!」 女はそう叫んだ後、ダイニングテーブルに肘をついて頭を抱えている男を睨んだ。 「あなたはどう思ってるの?何でずっと黙ってるの?あなたは耐えられる訳?自分の子が実験材料になってしまうのに……。あの注射を打たれたら……確実に死ぬわ!!」 怒りに震える女の叫びを聞いた男は眉を顰め、机に勢いよく拳を振り下ろす。
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