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寒さも少し和らいだところを見ると、もう三月に入ったのだろう。
私達が身を潜めるここ軍艦島にもようやく春がやってきたのだ。
この軍艦島、明治から昭和にかけて海底炭鉱で栄えていたらしいが、それ以降は無人島としてその姿を残している。
世界文化遺産にも選ばれた軍艦島はいつからか観光名所となり、連休にもなると軍艦島クルーズで全国各地から廃墟マニアや熟年夫婦が押し寄せていた。しかし、今この軍艦島に居るのは私を含めて三人しか居ない。
狂鳴化の騒ぎさえ起こらなければ、校内の掲示板に貼り出された学年末テストの結果を眺めていたのだろう。
でも、今目の前にあるのは色の無い瓦礫のような廃墟だけ。
しかし、同級生が次々と狂鳴化したり、死んで行ったりしたことを思い出すたびに、生きているだけで満足しないといけないのだと認識する。
全ては二つの奇跡が私たち三人を生かす事になったのだ。
まず、私の父が漁師で小型の漁船を持っていたこと。
父が居なければ、海へ逃げることは出来ずに狂鳴化していたはずだ。
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