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「ハハハ、すずは最近ボーっとし過ぎじゃ。その雨水も一回捨てぇ。3日前のやろ?雨の匂いがするけぇ、多分明日はまた雨が降る。それまで水は我慢や。ほれ、さっさと行くぞ」
そう言って和博は私の手を握り、堤防を目指して歩き出した。
華純は感情の読めない表情で私の背中を見つめながら手を振っている。
数分後、いつも和博が釣りをしているという堤防へ辿り着いた。
和博は慣れた様子で岩面にへばりついているフナ虫を素手で捕まえ、生きたまま針に突き刺して海へ放り投げる。
それを直視できない私は目を背け、和博の黒く太い腕をジッと見つめていた。
「やっぱり、すずはこういうの苦手なんやな。だから言うたのに。まぁでも、こうやって生き残れてるのも、すずの親父さんが船を動かしてくれたおかげやもんな。
釣り道具一式も一緒に乗せてくれたのも、今考えるとワシらが端島に辿り着くのをわかっとったようや」
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