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「ちょっとワシ、ロープ探して来るから、沈んでまわんように見張っててくれ」
そう言って駆け出した和博。
離れて行く背中を見つめていると、何故かもう二度と和博に会えない気がし、私も自然に走り出していた。
「すず、あんたまで行くことないんやないと?そんなに風間君から離れとぉないん?それとも、私と二人きりになるのが怖い?」
苛々した様子で華純がそう問い掛けてくるが、私はその問い掛けを無視して全速力で和博の背中を追いかけた。
確かに私は華純と二人になるのが怖かったのかもしれない。
別に二人きりになったからと言って、華純は私に危害を加えたりはしないだろう。
そんなことは分かっている。
ただ、言葉に出来ない不安が、私の心をギュッと掴んでいた。
華純は私に声を掛けるのを止め、和博の言葉に従うように海に浮かぶ長い髪を見つめている。
私は気付いて無かったんだ。
海に浮いている遺体の口から、一匹の狂鳴虫が這い出て来ていた事に。
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