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「和博!!」
名前を叫ぶ事しか出来ない私に、和博は再び声を荒げる。
「行けって言うとろうがぁ!!」
華純に石を投げつける体勢になった和博に背を向け、私は涙で顔をグシャグシャにしながら前だけを見て走り出した。
しかし、ここは軍艦島。
前だけ見て走った所で、外周一キロ程度の島で逃げるには限界がある。
数分間全速力で走った私の耳に反対側にある堤防に打ち付ける波の音が聞こえて来た。
綺麗な砂浜でもあればそこを最後の隠れ家に選んだのかもしれないが、この島にはそんな場所は無い。
耳栓をグッと奥まで差し込み、瓦礫の隙間に身を潜めた。
どうせなら、地震が来て生き埋めにでもなりたい。
全速力で走り続けた為、声を漏らさないようにしても喉奥から息が漏れる。
しかし、その乱れた呼吸も次第に落ち着き、いつの間にか身体の震えも治まって行った。
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