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一時間、二時間経っても和博の声は聞こえてこない。
和博の方へ戻りたい衝動に何度も駆られるが、狂鳴化した華純に近づく事の恐怖がその衝動を凌駕した。
更に二時間、三時間が経過し、いつの間にか朝日が私の背中を照らしている。
頬は涙で冷え切っているが、背中は妙に温かい。
長崎に居た頃、この時間だけは狂鳴人は活動を抑えていた事を思い出す。
きっと華純も同じように、活動を停止しているに違いない。
この時間を有効に使って、和博を迎えに行こう。
頭を抱え込んで丸まっていた私がスッと顔を上げた瞬間、目の前に焦点の定まらない黒目が現れる。
本当に驚いた時は声が出なくなると、何かの本で読んだことがある。
まさに私は今、その状態で目の前に現れた青白い顔を見つめていた。
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