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綾子の言葉を聞いた僕は、「京都から出てさ、九州の方まで行っちゃおうか?」と訊ねる。
すると綾子は苦笑いを浮かべながら、「何処に逃げても一緒だよ」と言葉を返した。
「何処に居ても、死ぬ時は死ぬんだし。いつ死ぬか分からない。だからさ、今はめいいっぱい旬との時間を楽しみたいんだ」
続けてそう言った綾子は両手を重ねて大きく伸びをした。
僕はそんな綾子の後ろ姿を見つめながら、こんな穏やかな会話を続ける事が出来るのはいつまでだろうと考える。
東京で初めて狂乱騒ぎが報道された時は、まるで映画を観ているような感覚だった。
でも今は違う。確実にそのパニックは、自分達の住む場所を侵食しつつある。
僕が遠い目で渡月橋を見つめていると、綾子はハッとした顔で僕の前まで走ってくる。
「潤太のお土産買うの忘れたから買ってくる!あいつ、ご当地スナック大好きだからさ。ちょっと待ってて!」
綾子はそう言って僕の肩を叩き、お土産屋が並んでいる道を走っていった。
『僕も行くよ』
いつもは気軽に口にしていたその言葉は、何故か喉の奥で止まっていたーーーー。
そして今、綾子が入ったと思われるお土産屋の前に辿り着く。
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