八百辻千斗1

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天才って称号は伊達じゃない。小説一冊を書き上げるのにそれだけしかかからないなんて。 さらに彼はネタに詰まると言う事がないらしい。常に新しい物を、新しい恐怖を、小説を通じて伝えてくる。 小説の文字を通じて伝えてくる。 コズミックホラー、サイコホラー、ゴシックホラー、モダンホラー、カルトホラー、スプラッタホラー。 ホラーの中を更に細かく分類するとこんな感じに分けられる。 現実的なホラーや事件性のあるホラー、幽霊が出てきたり日常の何でもない会話をホラーで読ませたり、血生臭い描写をしたりと、その幅は計り知れない。 凄い事は一つ一つの小説が完全に孤立しているという事。同じ作家が書いた物だとは思えないほど、全てが全く別の書き方をされているという事。 20冊以上の小説が、全てだ。 しかもそれらが出た瞬間から大ヒットで、増版増版の繰り返し。出版が追いつかないなんてざらにある。 今まさに小説界の中で誰が一番波に乗っているのかと聞かれれば、それは間違いなく怖気レンだ。 怖気レン。天才ホラー小説家。 私の頭の中では彼はサイコパス的な感じで、ペンが折れるくらいの筆圧でガリガリガリッ!と小説を次々と書き上げるイメージを持っていた。 光るメガネをかけて、不敵な笑みを浮かべ、一日中机に張り付いているようなイメージ。小説を書くためだけに産まれてきた、狂人のようなイメージ。 言っておくけど悪口ではない。そのくらいの人じゃないとあんなホラーは書けないだろうなと言う私の勝手な想像だ。 当たり前だけど小説にはその人の心の中が現れる。登場人物は全てその人から生まれた物なのだから。 登場人物の人数分だけその人の中に人格がある、と言っても過言ではないだろう。 つまりこれだけのホラーを生み出せる怖気レンは、もう存在自体がホラーみたいな人なんだろうなぁっていう、私の安直な勘。 でもその勘は大きく的を外れる。的どころか、場外ホームランだ。的を飛び越してどこかへ矢が行ってしまった。
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