八百辻千斗3

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「そういう八百辻さんは何人くらい?」 「さぁ。当ててみて下さい」 そう良いながら私は二杯目のビールに口を付ける。 続けて枝豆。うん。自分で言うのもなんだけど、完全におっさんよね。 たまらないわー。ビールに枝豆。 「15人?」 「何で増やしたんですか」 「ははは」 15人て。ビッチじゃないですか。10人って言ったお返しかな。 「ちょっとトイレ行ってきます」 「あ、うん。行ってらっしゃい」 ペース早く飲みすぎた。私は荷物を持って席を立ち、お手洗いの扉を開けた。 何でもない事だ。男女が居酒屋でたわいもない話をしながら、片方がお手洗いのために席を立つ。 別段何もない。だから私も何の警戒心もなしに普通にお手洗いの中に入った。 警戒心。ある訳がない。身構えるはずがない。油断とかそんな部類じゃなくて。 私がお手洗いに行っている間に禅大寺さんが何をしているかなんて、そんなの気にするわけがない。 後ろに目がない私は、気がつかなかった。気が付けなかった。 お手洗いに入っていく私の事を、禅大寺さんがどんな目で見ているかなんて。 その後の禅大寺さんの行動なんて。見るはずがない。見えるはずがない。 だから、気がつけるはずもなかったんだ。彼の「狂愛」に。
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