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「 …今の名はトリか…」
男がゆっくりとテレビのリモコンを前の卓袱台の上に置いた。
( …なんでオレの名前…って、 …ああそうか)
さっき土井さん宅で散々オレの名前を叫んでいた組合員たちを呪うオレに、男が無の視線を向けた。
「…傍に寄れ」
と言われたので、素直に頭を振ると、
「…喰われたいか」
とてつもなく現実的。
強張るオレは、本当に食べるんですか、など確認することもできない。
( …ううー…)
仕方なく膝立ちで、心から嫌々その足元に寄った。
嫌過ぎて腰が引ける。
男は、そんなオレを黙って見詰めていた。
そして、
「 …俺が怖いか」
せんとくんのような立派な角を持った銀髪の大男が、ソファに横になったまま頬杖をついてこちらを見る。
はみ出した膝下。
ぶらぶら揺れる。
少し不貞腐れてるようにも見えたけれど、理解できないオレは大きく何度も頷いた。
「…志乃という女を覚えておるか」
問われて、本気で考えた。
自分の一切の記憶の引き出しを一瞬で全力で開けていって、
ブンブンと、今度は首を横に振る。
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