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「 …何故怯えるのだ…」
男がまた、寂しそうに言った。
「…思い出せ」
近づく男の顔。
口にそれが触れるまで気付かなかった。
なぜなら見た目が完全に男だし。
オレだって女みたいな顔をしてるわけでもなし。
だからまさかそんな口を合わせてくるとは微塵も思うはずもなく。
まず冷たい唇に体が竦んだ。
風のような息が入ってきて愕然とし、すぐそこの白い睫毛にまた脳の一部がチカッと点灯して。
でもそれはほんの一瞬。
大きな手に脇腹を掴まれた拍子に、オレのそれまでの金縛りが解けた。
「 …っ」
思わず男の二の腕を掴んでいた。
「っちょ…っ!」
全力で顔を逸らした。
「っオレ男っ!! オトコですッ!!」
「…わかっておる」
男が腰を上げた。
重心をかけてきたその異常に重い体に、傾くオレの体。
頭の中が感嘆符と疑問符でブワッと押し広げられた。
畳のザリッとした具合にシャツが擦れ、背中が察し、
その硬さに背骨が一気に伸びる。
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