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「っ人違いだ!! 絶対人違いですッ!!」
「…まだ申すか」
数センチ先から、覗き込むようにオレを見る。
ガラス玉のような薄い瞳。
「…まあ良い。 すぐに思い出す」
少し上がった口角を見た瞬間、オレは青ざめた。
「っおい…!」
オレの顎を、その冷たい唇が押した。
必然的にオレの喉仏が晒される。
そこに口を付けられた。
「……っつ」
もう秋だと言ってもこの地域はまだ蒸し暑い。
その冷たく柔らかな感触は、きっと普通なら気持ちいいのかもしれない。
そしてもう少しオレが冷静でいられたら、この時すでに自分が生まれた意味を思い出していたかもしれない。
でも実際のオレはまだ全然わかってなかった。
どうして男が悲しそうなのか、どうして怒っているのか、どうしてこんなことを男のオレにしてくるのか。
その時のオレには全く理解できなかった。
ただ、脇腹にあったその手が下に降りていくのが、ただただ。
ただただ。
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