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「 …本当に」
男が、呟くように言った。
「…覚えてないのだな…」
オレの目を、その薄い瞳で窺うように覗き込んできた。
憂いの漂うその目にドキリとした。
「…悲しいものだ…」
言いながら白い睫毛を伏せると、オレの硬い胸にそっと額を押し付ける。
驚いたオレはそいつの耳元で叫んだ。
「いや離れろよッ!! 祠に帰ってくれ!!」
心臓がびっくりするくらい高鳴っている。
どきんどきんとオレの理性の邪魔をする。
「もうマジ帰れ!! オレはあんたの事なんて全く知らない!! 志乃って人も!! 会ったこともない!!」
「……」
人とは違い、熱くない息。
それが、シャツを通してオレの皮膚に触れた。
思いもしない切なさに、その大きな背中に触れたがる自分の指に動揺した。
一掃したくてオレはその手を更に固く握る。
「…お前の目には」
男の声が切な気にくぐもる。
表情は見えなかった。
「…今、俺はどう映っておるのか…」
「っ変態に決まってる…!」
叫び、また腕を振り下ろそうとしたその時、
「っ鳥越ぇぇええええええッ!!!」
突然、思いもよらぬ怒鳴り声が鳴った。
リビングの、庭に面した大きな窓が一気に開け放たれ、
「その手ば降ろせ!! 龍神様になんばしよっとか!!」
そこに、真っ赤な顔した前のめりの村長がいた。
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