一、生まれ変わりを信じるか

39/42
前へ
/360ページ
次へ
… 明け方になり、ようやく聞こえ出した小さな寝息に、 龍神は襖を静かに開けた。 暗くとも中の様子は手に取るようにわかる。 昔、志乃が暮らしていた小さな家を思い出した。 あの頃は楽しかった。 人間は必ず死ぬ。 わかってはいたが、楽しかった。 薄暗い中に、雄に生まれ変わった番いの姿を見る。 自分に怯え、同じ部屋には寝なかった。 怯え、自分に一組しかない布団を与え、生まれ変わりは長い椅子の上で眠る。 その鼻の先にそっと膝をついた。 拍子に足元の畳が微かに軋み、自分の心の乱れを知る。 ふっと自嘲し、現世の顔を覗き込んだ。 眉間に皺が寄っている。 重い疲労が、体中から感じられた。 「……」 龍神は自分の左手で、三百年前より大きくなった愛しい体を撫でた。 すると安堵したように眉が下がり、 先程までに比べ、表情が柔らかくなった。
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1525人が本棚に入れています
本棚に追加