1525人が本棚に入れています
本棚に追加
…
明け方になり、ようやく聞こえ出した小さな寝息に、
龍神は襖を静かに開けた。
暗くとも中の様子は手に取るようにわかる。
昔、志乃が暮らしていた小さな家を思い出した。
あの頃は楽しかった。
人間は必ず死ぬ。
わかってはいたが、楽しかった。
薄暗い中に、雄に生まれ変わった番いの姿を見る。
自分に怯え、同じ部屋には寝なかった。
怯え、自分に一組しかない布団を与え、生まれ変わりは長い椅子の上で眠る。
その鼻の先にそっと膝をついた。
拍子に足元の畳が微かに軋み、自分の心の乱れを知る。
ふっと自嘲し、現世の顔を覗き込んだ。
眉間に皺が寄っている。
重い疲労が、体中から感じられた。
「……」
龍神は自分の左手で、三百年前より大きくなった愛しい体を撫でた。
すると安堵したように眉が下がり、
先程までに比べ、表情が柔らかくなった。
最初のコメントを投稿しよう!