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その日は結構などしゃ降りだった。
遠く雷鳴も聞こえる。
あの古びた祠が、少しだけ頭を過った。
「ひどぉなったなあ」
テーブルの向かい側の村長が、視線を斜め上に上げた。
ちょっとホッとして、
オレも倣って上を見る。
暗い天井、いくつかの煌々と光る蛍光灯。
その中の一つに、さっきから黒いカナブンがガンガン体当たりしてたのを知っていた。
でも店に入ってすぐに「真面目な話けんな」と釘を刺されていたオレは、幾度もの頭上の事故現場を見れないでいた。
やっと見れて、なんだか肩の荷が下りた。
狭い店内には、野暮ったい演歌のBGM。
その後方、それを掻き消すような雨音。
そしてそれを上回るカナブンの猪突猛進的な自己表現。いや、本能。
「バケツをひっくり返したって言うとは、こがんとやろうなあ」
村長がしみじみと言うと同時、店のドアがバタンと勢いよく開いた。
「っやーっ! ひどか雨っ」
さっき酒のツマミを買い足しに行った、この店のママのイソ子さんが、悲鳴を上げながら店内に入ってきた。
「あたいがコンビニば出た途端ひどぉなったとよ!」
ビチョビチョのまま、重そうなレジ袋をワシャワシャ振り回し、自分のワンピースの水滴をバッタバッタと叩く。
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