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その日、富田健吾は春樹も拍子抜けするほどあっさりと見つかった。
当初の美沙の予想通り、木ノ下という同窓生の家に転がり込んでいたのだ。
警戒心など皆無らしく、フラフラと二人して出歩いており、尾行も容易かった。
けれどこれからが本番だ。富田の現住所の特定が、この仕事の最終目標なのだ。
不用意に話しかけて不信感を与えてしまえば、今度こそ逃げられるかもしれな。
春樹は気持ちを引き締めた。これは自分の仕事なのだ、と。
自然に富田に近づき、どうにかしてその肌に触れ、今現在こっそり身を置いている場所を出来る限り読み取る。
本人の生活に関する記憶なら、たとえ数秒でもしっかり春樹には把握できる自信があった。
触れて情報を取り入れる際に春樹自身が受ける苦痛は、何とか我慢できるレベルだろうと推測していた。
富田は、触れて精神を破壊されるほど常軌を逸した犯罪者ではないはずだから。
後でその情報に間違いがないか、現地で裏を取れば終了だ。依頼人に渡せる。
そんな筋書きを美沙に伝えると、美沙もようやく今回だけ春樹のその能力を仕事に使うことを容認してくれた。
走るのが速い男が、例えば警察官になり、健脚を利用して犯人を捕まえるのは悪い事じゃない、と遠回しに言ってくれた。
ストレートに優しさを表に出せない美沙の、そんな不器用なところも春樹は好きだった。
この能力に関してどんなに辛辣な事を言われても、美沙なら嫌な気持ちにならない。
美沙に触れたことも無いのに、その本質的な優しさが春樹には充分すぎるほど分かっていた。
そうでなければ、こんなに面倒くさい自分に今まで、寄り添ってきてくれるはずなど無いのだ。
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