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2人が予約を入れていた民宿に着いたのは、もう薄っすら陽が陰って来た頃だった。
1階で軽食喫茶も営んでいるその民宿には、ほんの4部屋ほど宿泊出来る部屋がある。どちらかというと、民宿の方がオマケという感じだ。
後ろは竹林。前面は県道を挟んで、のどかな田園風景が広がっている。
「なんとなーく気づいては居たけど、本当に何もない田舎なのね、ここは」
2階中央にある『螢の間』に入るなり、ジャケットを畳の上に脱ぎ捨てた美沙が言った。
すっかり酔いからは回復したらしく、エアコンの温度をリモコンで下げながら、暮れていく窓の外を眺めている。
セミロングの艶やかな髪が、ノースリーブの少し汗ばんだ肩にかかるのを、春樹はぼんやり見つめた。
「泊まるところがあっただけマシだよ。他の民宿はみんな潰れちゃったみたいだからね」
「春樹と田舎で野宿するのも楽しかったかも。残念」
そう言った後、美沙は猫のようなくしゃみを一つした。
「ああもう、温度下げ過ぎ。20度って何だよ」
野宿発言に突っ込むタイミングを逃したまま、春樹はすぐさまエアコンの温度を27度に戻す。畳からジャケットを拾い上げ、その肩にかけてやると、美沙は“サンキュ”と、にっこり笑った。
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