第3話 通りすがりの不幸

2/7

79人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
2人が予約を入れていた民宿に着いたのは、もう薄っすら陽が陰って来た頃だった。 1階で軽食喫茶も営んでいるその民宿には、ほんの4部屋ほど宿泊出来る部屋がある。どちらかというと、民宿の方がオマケという感じだ。 後ろは竹林。前面は県道を挟んで、のどかな田園風景が広がっている。 「なんとなーく気づいては居たけど、本当に何もない田舎なのね、ここは」 2階中央にある『螢の間』に入るなり、ジャケットを畳の上に脱ぎ捨てた美沙が言った。 すっかり酔いからは回復したらしく、エアコンの温度をリモコンで下げながら、暮れていく窓の外を眺めている。 セミロングの艶やかな髪が、ノースリーブの少し汗ばんだ肩にかかるのを、春樹はぼんやり見つめた。 「泊まるところがあっただけマシだよ。他の民宿はみんな潰れちゃったみたいだからね」 「春樹と田舎で野宿するのも楽しかったかも。残念」 そう言った後、美沙は猫のようなくしゃみを一つした。 「ああもう、温度下げ過ぎ。20度って何だよ」 野宿発言に突っ込むタイミングを逃したまま、春樹はすぐさまエアコンの温度を27度に戻す。畳からジャケットを拾い上げ、その肩にかけてやると、美沙は“サンキュ”と、にっこり笑った。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加