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「でも…行かないと…」
ついに自分の中で何かが切れるような音がして俺は立ち上がっていた。
「…出てけよ」
今、目の前にいるのかも分からない。それでも俺はそう言った。
「………」
「出てけっつってんだろ!!」
発散できるはずも無いストレスを無理にぶつける。怒気が声を荒げ、それは枯れていた。
「…ごめんね」
そう一言残し、足音が遠ざかっていく。少し背伸びしたヒールが地面と摩擦して発する音が部屋に響き、次には重い玄関の扉が開かれる音がした。
「…私、ずっと一緒にいるからね」
ガチャン、という音と共に静粛が訪れた。
気付くと、俺は固く握り拳を作っていた。爪が手の平に食い込み、血管が破れてしまいそうな感覚がした。
「…ッチ」
思考に浸れば浸る程、悪質な思惑が脳内を支配していく。
【何故俺がこんな目に遭うんだ?】
【何故俺は視力を失わなくちゃいけなかったんだ?】
【何故あの時、俺を轢いたんだ?】
【他にも大勢いただろ?轢ける奴なんか】
酒を飲まなければやっていられなかった。もし酒を飲み、アル中で死ねるのならまたそれも良いと思ってしまった。
「………」
綾香が買ってきた酒を求めて物を物色し始める。
カーペット、クローゼット、タンス…次々と手で確認してついに俺はテーブルへと辿り着いた。
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