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「…ッ!!」
どれもこれも重量感の無いアルミニウムばかり。何十本と確認し、テーブルの上に酒は無いと認知した俺は腕を薙ぎ払った。
遠くでアルミニウム同士がぶつかり、ついには地面に叩きつけられる音を遠耳に冷蔵庫へと歩き出した。
台所、食器棚、ゴミ箱…唯一頼りの触覚を最大限活用して後数歩で冷蔵庫に辿り着ける、と一歩踏み出した瞬間――
「――痛ッ!!」
足の裏に鉄のように硬く、ガラスのように鋭い何かの破片が突き刺さり、足の裏に食い込んだおそらくビンの破片だろう、それを引き抜くと同時に生温かい感触が手にベットリと付いた。
「…死ねよ」
ついに出たのは幼稚な言葉だった。
そして次の瞬間、俺の脳は簡単に酒を取り出す方法を導き出した。
「綾香ー!」
名前を呼ぶ。俺の口から発せられた声が自身の鼓膜を振動し、聞こえるにも関わらず他の声は鼓膜を振動しなかった。
「あや――」
そして俺は気付いた。
ふざけんなよ、俺。綾香がここにいるわけがないだろ。お前が出ていけと言ったのだから。
「―――」
本当に誰もいなくなってしまったという孤独感、その物静かさが余計に不安感を煽る。
本当に――いなくなってしまったのか。
一度不安感に駆られてしまえば何もかもが恐怖の対象になってしまった。
無数にあるアルミ缶、割れて錯乱したビンの破片、ノイズさえも発さないテレビ、今となれば開くことの無くなったタンス、クローゼット。
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