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「はぁ…ッはぁッ」
恐怖のあまり膝が折れ、その場から逃げ出したかった俺は四つん這いでアイツがいたはずのテーブルの横へと向かう。
頭をぶつけ、鈍い音を響かせながらも俺はテーブルへと辿り着いた。
「もう…嫌だ…」
恐怖に身動きの取れなくなった口が発したのは、その一言だけだった。
対象のない自己防衛は自分の体を抱きしめ、顔を俯かせることを優先させた。
「綾香…」
誰もいない、何も無い部屋に唯一の在るものが響く。
俺は馬鹿だ。取り返しのつかないほどに、馬鹿だった。
俺は捨ててしまったんだ。俺を好きでいてくれた彼女を。俺を支えようとしてくれていた彼女を。俺の目になろうとしてくれていた彼女を。
俺に、"愛"を教えてくれた彼女を。
もう与えられるのない愛を、もう知ることのできない愛を、もう触れることのできない愛を、心の奥底にあった本音は欲しがった。
何やってんだよ―――視力よりも、もっと大事なモン失ってんじゃねえかよ――。
次の瞬間、何もかもが停止した。視界は元のこと、思考や意識でさえも。
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