第1章

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 やはり、近寄ってはいけない。梯子を降りると、俺は、千々石にクッキーを出した。 「千々石、瓶ごと持ってゆけ。これ、体力が回復するから」 「ああ、そういう感じの話でしたか……」  千々石は感が良かった。俺は、嘘を付けずに、目が泳いでしまった。 「犬の位置、ありがとうございました。俺、神使いですが、今、これだけ周囲に闇があると、力を出せなくてね」  それでも、千々石はやはり異能の人間であった。 「まあ、たまには、神憑きと神使いという、本来の組み合わせも良かったよ。動き易いし、説明が要らない」  強いて言うのならば、存在が近いのだ。境遇もどこか近い。俺には弟はいないが、両親には死なれていて、気持ちは分かる。守られずに世間を見つめた、あの独特の冷めた心の記憶は消せるものではない。守られていない子供は、傷付いても治す術を持たない。他者に、こんなに痛いのだと分かって欲しさに、相手を傷付けるのだ。そして更に孤独になる。  でも俺達は、その孤独から這い上がってきた。今度は、他者を闇から助けるのだとも誓っている。その根底が似ていた。 「俺も、薬師神が理解し易かった」  千々石が闇憑きを制御してくれているおかげで、俺も人探しに集中できる。千々石が、【愛の翼の会】で、神憑きを排除するというルールを撤廃してくれたおかげで、俺も、俺の周囲も殺されなくなった。 「それと、千々石。ありがと」  誠斗を助けてくれて、ありがとう。  やっと和海が、店頭に来ると、大盛りのカレーをオーダーしていた。 「颯、今日、通販の品物が届くから、楽しみにしていてね」  何を購入したのだ。しかも、特急便なのか。 「キュッキュッ締めてくれるのはいいけど、ちょっときついからね。それに、花の香り付きというのもあったよ」  俺は、席を立つと、和海に超特大大盛りカレーを出してやった。和海は、今日もこれから頑張る気なのだ。  特大大盛りカレーは、大皿に残ったご飯を全て盛り付け、土手にした。そこに、カレーを入れてみた。 「おいしそう」  和海は、平然と食べていた。およそ、十人前はあったであろう。 「塩冶さん、千々石を壊さないでくださいね」  塩冶は眠そうに壁にぶつかりながら歩いていた。もしかしたら、和海の夜のために、頭を使い過ぎたのかもしれない。 「そうね、俺も薬師神君を壊したくいから、結果は報告を受ける」  やはり、俺は実家に戻った方がいいのか。
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