第1章

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今日もまた、暖簾をくぐり、お客が現れる。 「あ、あの……初めてなんですが」 どうぞ、と言い座らせる。 「じ、実は……護身用の包丁を、どこかに無くしてしまいまして。犯罪にでも使われたら大変なので、見つけたいんです。どこか、見当でいいのでつけられませんか?」 護身用……いや、違う。 この人は半年前、妻を殺してる。 一度は警察に疑われるも、嫌疑不十分で釈放。 現在、晴れて自由の身だけど……凶器である包丁に、自身の指紋がついてないか不安になっている。 そのために見つけて、証拠を消したい、と。 「……3丁目の空き地にあります。入り口の右手、深さ1mの位置です」 この人が、証拠隠滅のために埋めてる。 半年前の殺害直後だから、記憶が薄れてるんだろう。 男性は、おざなりに頭を下げ、去っていく。 過程がどうであれ、失くし物は失くし物であり、お客はお客である。 それに、失くし物が仮に見つかったとしても、彼には後に、しかるべき罰が下されるだろう。 この世というのは、悪人が最後まで栄えることはないように出来ているのだから。
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