第1章

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「……すみません。いいですか?」 先ほどの刑事から幾分か経ち、今度は若い女性が訪れた。 神妙な面もちで、どこか覚悟を決めた表情。 「……どうぞ」 席を勧め、彼女を座らせる。 「……どうしても、取り戻したいものがあるんです。お願いです……お姉ちゃんを、お姉ちゃんを生き返らせてください」 この女性、半年前に姉を亡くしてる。 それも、他殺。犯人は未だに分かっておらず、追いかけてるのは、信頼を失ったベテラン刑事のみ。 この女性もまた、先ほどの刑事と同じように夫を怪しんでおり、その予想は、幸か不幸か的中している。 失った命を取り戻す……この問いかけに、私は、こう返すしかない。 「……当店では、失った物は取り戻せます。……ただし、命を取り戻すことは、できないのです」 僅かな希望。それを打ち砕いてしまうのは、いつも悲しく、辛い。 女性から、失望と諦め、悲壮感が嫌というほどに伝わる。 「…………そう、ですか。そう、ですよね。はは……何言ってるんですかね、私……」 彼女の双眸から、涙が零れた。
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