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1 開幕
初めての長い夏休みが終わる間際に実家から大学に戻ってきた古川真琴は、後期の講義が始まる3日前の昼、学生棟のカウンターにいた。
「はい、たしかに受理しましたよ。これは新しい時間割、そしてこっちは前期の成績表ね。後期もしっかり頑張って」
そう言って学生課の女性事務は1枚の紙と1通の封書を真琴に手渡した。
真琴はその場で紙を確認する。
時間割はほぼ全部が講義で埋まっている。
自分で選択して組んだとはいえ、すこし無理したかな……などと真琴は考えた。
そんな真琴の心中を見抜いたのか、白いサマーセーターを着た女性事務が優しい笑みを湛えて言う。
「大丈夫、へっちゃらよ。だいたいね、みんな高校まではびっしりの時間割で勉強してたはずなのに、大学に入って自分で時間割を組むとスカスカ。みんなの方がおかしいの。あなたが正しいのよ」
「はい、がんばります」
真琴はしっかりと女性事務の目を見て答えた。
たまにしか接する機会がないものの、真琴はこの白石という名の40歳前後の事務職員に少なからぬ好感を抱いていた。
テキパキと業務をこなし、物言いは気が強そうであるが、発言にはいつも思いやりがあった。
まるでお母さんみたい……。
真琴はそう思っていた。
真琴は学生棟のロビーでソファに腰掛け、携帯電話を手にする。
「あれ?開かない……」
真琴は、今しがた仕上がった後期の時間割をスケジュールアプリに入力しようとしたが、立ち上げようとしたアプリケーション「カレン」は起動しなかった。
- 本日20:00まで定期メンテ中 -
真琴がカレンをインストールしたのは半年前だが、これまでメンテナンスなど一度もなかった。
この時期に定期のメンテナンスということは、おそらく大学の前期、後期の切り替わりの時期にメンテナンスが行われるのだろうと真琴は理解した。
だが、やるなら予告くらいすればいいのに、と真琴は憤慨した。
カレンが使えないって、困るよな……。
困るのは、真琴がカレンというアプリケーションをかなり重宝して使っていたからだ。
カレンは非常に多機能で優秀なスケジュール管理ソフトであり、SNSアプリであり、ブラウザでもあり、動画サイトでもあった。
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