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洗練されたレイアウトで使い勝手がいいので、真琴は既存のSNSではなく、もっぱらカレンで学友と連絡をとっていた。
他の大手SNSよろしくグループ機能があり、真琴は学科と卓球サークルだけでもそれぞれ複数のグループに入っているほか、ファーストフード店のバイト仲間のグループにも入っていた。
どのSNSでも同じであるが、学科全体などの大きなグループでは皆が当たり障りのない事務的な発言に終始する一方で、少人数の仲良しグループ内では専ら異性の話題で盛り上がるようだった。
真琴もその例に漏れず、仲の良いグループ内では、トーク画面がガールズトークで埋まっていた。
「あのオバさん、いちいちうるさくね?」
「マジ大きなお世話。ゼッタイ独身だよな」
傍らを通り過ぎていく男子学生の会話で真琴は我に返る。
男子学生は白石さんのことを言ってる……。
おそらく白石さんから時間割のことで小言を言われたんだろう。
仕方なく時間割の入力を諦めた真琴は、総合科学部近くの大学生協に寄って、新たに必要になる教科書を購入してから自転車でアパートに帰った。
かなり古い学生アパート、間取りは1DKだ。
しかし真琴はこの自分だけの小さな空間を心底愛していた。
なにもかも自分のもの……。
半年経った今でこそ慣れたが、入学当初、初めての一人暮らしの解放感は18年間生きてきた真琴が味わった最高の至福だった。
決して親が嫌いなわけではない。だが苦しい受験を終えた果てに与えられた自由な環境は、それまでの狭い境遇とのギャップも相まって真面目な真琴をして暫くの間、ひとしきり浮き足立たせた。
それでも生来の生真面目な性分と親から授かった良識により、真琴は大学デビューで遊び呆けるようなこともなく、至極まっとうな大学生活を送っていた。
講義はどれも高度で新鮮だったし、少し地味な卓球サークルに入り、両親のことを考えて学業に障らない程度のアルバイトを始めた。
仲の良い友達もできたし、密かに想いを寄せる男の子もできた。
恥ずかしいので言葉にこそ出さないが、真琴は今の生活を「これぞ青春」と思っていた。
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