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「古川さん」
思案顔の真琴に声をかけたのは高山だった。
伏せていた目を上げ、真琴は仕草で答える。
「私は田中美月さんの家にお邪魔したことがあります。いえ、ここ数年は幾度となく……です」
「そうなん……ですか」
「田中美月さんの家では、今でも毎年、美月さんの誕生日を祝っています」
…………。
重いドラマ……。
私にできるのは想像することだけ。
「よくある話ですが、美月さんの部屋は生前のまま。そして壁に刻まれた成長記録……いわゆる柱の傷を見て心が動かない人はいないでしょう」
……光景が目に浮かぶようだ。
亡き娘のことだけを考えて生きてはいけないけど、忘れることもなければ逃げることもできない。
それが、子を失った親なんだ。
真琴は不意に、我が身がとても大切なものに感じられた。
目を閉じて父と母の姿を思う。
それと同時に真琴の思考は元農学部助教授、白石に向けられる。
そう、ヒントはあったんだ。
白石さんが私のことを「目立って真面目」と評していたのには運営という裏付けがあったんだ。
カレン運営が始まるきっかけとなった田中美月事件はもとより、隠蔽が行われた後に松下さんがネガを携えて大学を訪れたときに窓口となる場所にいたんだから。
そして白石さんが繋いだんだ。
松下さんと、高山先生を……。
初めに大塚警部が大学にネガを持ち込んだ先が高山先生だということも知ってたんだから。
学生説明会のときに私に見せた憤慨だって矛盾はない。
だって、この大騒ぎはミツキの独断によるもの……。
白石さんだってビックリだったんだ。
9月28日のカレン豹変は、運営同士の意志疎通も混乱させたはず……。
そして名前こそ出ていないものの、カレコレによって不本意に自らの過去を明かされた。
そう、明かされたんだ。……ミツキに。
たぶん、なにもできないまま……。
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