10月7日(金)

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(白石さんについては……うん、そうだよ。他の人には辿ってもらいたくない道だって白石さんは言ってる。でも、悔やみきれないものもあるけど今は幸せだって) 「……話してるの?白石さんとも」 (話してるよ。あ、でも高山先生とは違って、話すようになったのは9月28日からだよ) 「じゃあ理学部のエピソードは?あれはなんなの?」 (……真琴) 「なによ」 (2通りのストーリー……。どっちも現実にあったことなんだよ。あれは)  あ、ああ……そうなのか。  ここで真琴の言葉が止まる。 (あれさ、いちばん最初のステージだから、どのチームも仲違いする前だと思ったんだ。真琴たちも理沙が別ルート選んだから知ったでしょ?両方の物語を) 「でも、あんなヒドい出来事を晒すなんて、あれも同意をもらったっての?」 (うん。片方は特定されないことを条件に、もう片方は……遺族から、ね)  つまり、すべて同意を得てからカレコレを作ったってことか。  仕事の早さは今さら驚くことじゃない。  ミツキの能力は……底知れないんだ。  すべてに答えるミツキを相手に、ここで真琴はすっかり毒を抜かれてしまった。  右手が胸から滑り落ちる。 (真琴) 「なに?」 (この際だから言っておくけど、高山先生を含めて他の運営にも〝覗き趣味〟はないよ) 「……どういうこと?」 (運営が9月28日に学生に見せたもの、あれはぜんぶ私が用意したんだ) 「つまり私のアレも、機械であるミツキしか見てないってこと?」 (そう。膨大なデータがサーバに蓄えられてたけど、その中から学生の〝イヤなもの〟だけを抽出して編集するなんて、生身の人間にできると思う?)  考えてみればそのとおりだ。  その能力もまさにスーパーコンピュータとしての真骨頂……。  アナログ作業でできることじゃない。  真琴はすっかり脱力した。  そして、それを隠すことなく真琴は高山に乞う。 「……高山先生」 「はい」 「お話は理解した……つもりです。ですが、すこし時間をください」 「わかりました。その間、私は学生が早く安全圏に入るよう働きかけます」 「ああ……はい、よろしくお願いします」  そこまで言って真琴は立ち上がり、部屋を出る。
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