10月7日(金)

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 大事を経た娘を前にした母の、あまりの平常運行……。  その落ち着きぶりが真琴を悲しくさせる。  しかし、真琴は確認せずにはいられなかった。  ひとつ深呼吸をして、答えの置場所を心に空けてから真琴は問う。 「お母さんは、どこまで知ったの?」  母は、娘の問いをまっすぐ受け止めた。  穏やかに娘の瞳を見つめたまま、どう答えるかを考えているようだった。  もともとおしゃべりじゃないけど……。  そんなに考えることなの?  お母さん……。 「かるく10年は連絡とってなかったのよ、恵美とは。まさかそんなことになってたなんてね」  ……なるほどそっちか。  白石さんからなのか。  真琴は静かに目を閉じて、心に設けた置場所に母の答えを置いてみる。  うん……なんの違和感もない。  じゃあ、隙間を埋めなくちゃ。 「連絡って、いつ?どっちから?」 「10月1日、恵美からよ」  あ、そうか。そうなんだ。  あれ?これでもう……隙間がないかも。  あ、すこしある。 「お父さん……には?」 「必要なかぎりで話したわ。お父さんもスッキリしてた」  必要なかぎり……。  なるほど巧い言い方だよね。  心の隙間が埋まった真琴は目を開く。  母の表情は変わらず……穏やかだ。  その母が、穏やかに真琴に尋ねる。 「なんで真琴に感付かれたの?私は」 「……だって、もう途中から心配してなかったじゃん。お母さんも……お父さんも。現実の危険は心配そうだったけど、カレンのことはもう全然」 「真琴……。いつ気付いたのよ。いったい」 「ついさっきだよ。余裕なかったんだから。気付いたから連絡したんだし」 「ああ……なるほどね。お疲れ様よね。……ホントに」  敵わないな、やっぱり。  まだ聞きたいこともあるけど……。  もういいや。  空けた置場所がきれいに埋まった感触を得て、真琴はこの件を閉じた。  それからは真琴の愚痴……。  真琴はこの10日間の苦労を母に吐き出した。  そして真琴は、スッキリとした気分で母と別れた。
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