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真琴は腕時計を見る。
……時間だ。
そして反対側の袖から司会者らしき男性が現れ、所定の場所に着く。
ん……。
この司会の人、誰だ?
見たことあるような気もするけど……。
大学の人じゃない。
見たのは……警察の詰所?
いや違う。
……誰だっけ?
歳は大塚警部と同じくらい……かな。
薄暮の中、その司会者にスポットライトが当たり、聴衆の注目が集まる。
プロなのか、司会の男性はまったく動じることなく注目を受け止める。
そして、原稿があるのか演壇に目を落として集会の開始を告げた。
まずは今回の騒動の結末について、大塚警部による報告があるようだ。
司会者に促され、大塚警部がステージ中央のマイクを握る。
大塚の話は、真琴の予想に反してシンプルなものだった。
まず理不尽な押し付けに耐え、自力で安全を勝ち取った学生たちを讃えた。
次にカレン運営について、運営の一部を確保しているものの捜査は途上であり、詳細については未だ報告できる材料がないことを告げた。
また大塚は、学生の安全は運営が約束したことと、学生個々が見せられた爆弾の中身については、ひとりの運営しか見ておらず、決して流出しない状態にあることが確認された旨を付け加えた。
大塚がここで間をとり、ステージ前に集合している学生を見渡す。
その学生の反応……〝沈黙〟を確認して、大塚はすこし意外そうな表情を見せる。
少なくとも真琴の目にはそう映った。
そして大塚は、視線を落としてから結びを口にする。
「……このような」
……ん?
大塚さんの様子がおかしい。
もしかして……言葉に詰まったの?
「この期に及んでこのような情けない報告しかできないことを、県警を代表し、この場を借りてお詫び申し上げます」
言い終えると同時に大塚は深々と頭をさげる。
それは心からの謝罪であり、また、崩れた表情を見せぬための意地だった。
真琴の目は捉える。
大塚の悔し涙を。
……大塚さん。
そんな、そんなハナシじゃないじゃん。
なんで泣いたりすんのよ。
警察は強くなきゃいけないんでしょ。
そこの責任者なんでしょ。
真琴はきつく目を閉じる。
こんなところで泣いちゃダメだ。
ダメだ……。
ダメだ……。
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