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 釣られて込み上げるものを必死で抑えている真琴の耳に、パラパラと拍手の音が流れ込む。  え……。なに?  感情の逃げ場をその音に求め、真琴は観衆に目を向ける。  広場を埋め尽くす学生が出した、大塚への回答……。  その拍手の音は瞬く間に膨れ上がり、満場に鳴り響いた。  野次でも罵倒でもない。  讃えてるんだ……。みんな。  警察の……努力を。  頭を上げるまで鳴り止みそうにない気配……。  それを大塚も感じ取ったのか、口をきつく結んで大塚は顔を上げた。  そして今度は軽く一礼し、ステージを去る。  大塚は、去り際も拍手に送られた。  真琴は大きく息を吐く。  なんとか持ちこたえたけど……。  なによこの集会……。  なによこの……雰囲気は。  私、出番があるんでしょ?  真琴が胸の高鳴りを必死で抑えていると、拍手が鳴り止んだ頃合いで司会者が口を開く。 「さて、ただいまの大塚警部の報告には含まれませんでしたが、このカレン騒ぎの捜査と併せて、警察は大仕事を成し遂げました。皆さんもご存知のとおり、平成7年に起った〝強制わいせつ致死事件〟の犯人2人の逮捕です」  うん、そうだよ。  ホント、警察はその実績を誇っていい。  気を持ち直した真琴は司会者の次の言葉を待つ。 「まあこれは、騒ぎの最中に示されたとおり、運営の〝目的のひとつ〟でした。運営から突き付けられた20年前の難事件の解決……。その運営からの要求にみごとに応え、運営から直接みなさんの安全を保証するという約束を取り付けた警察の実績は小さくありません。どうか今いちど、今回の捜査に携わっている県警のみなさんの労苦に、拍手をください」  促されたものであるにも関わらず、広場は割れんばかり……天にもこだましそうな拍手に満たされる。  真琴は感じた。この聴衆が単なる「出席者」ではなく、能動的な「参加者」であることを。  まだ集会は冒頭なんだろうけど、上手いな、この段取り。  さすが「ミツキプロデュース」だ。  早くも聴衆に一体感を植え付けた。  そのうえ運営の影が薄い。 「そしてこの難事件の解決に多大な功労があった学生に対し、警察庁長官賞が授与されます」  あ。  なんだか出番っぽいぞ。  マズい。ぜんぜん平常心じゃない。
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