ナチュラルキラー細胞

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発端はとあるアメリカの大企業の敏腕CEOが、原因不明の死を遂げたことだと考えられている。 ある日突然、彼は業務を放棄した。世間には急病のためと報道されたが、それ以上のことは明かされないままだった。噂によれば、その後彼は仕事どころか日常生活の一切を行わなくなり、とうとう息絶えたという。いわゆる衰弱死だ。精神的な病が原因だろうと考えられたが、はっきりしたことはわからなかった。 そして、それを皮切りに次々と同じような症例が各地で相次いだのである。 この現象がなんらかの感染症のせいなのではないかと、そう疑い始めた頃にはもう全てが遅かった。 正体不明のウイルスが、燃え盛る炎のように広がっていった。 その炎は等しく人の心を焼き尽くし、全ての思考を、人格を、そして感情を奪った。 人類にはもうそれを食い止める術はなく、そんな気力も意思もなかった。 正気を保っている人間がどれだけ残っているというのか。 世界は崩壊を待つのみだ。
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