ナチュラルキラー細胞

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謎のウイルスが最後にたどり着いた地は、地球の片隅、まだ世界に知られていない辺境の集落であった。 そしてそこには今まさに、ウイルスに侵され死に逝こうとしている少女がいる。 少女の名前はわからない。 独自の文明を築く彼らの言語は読解不能である。 ただ、「あー」だとか「うー」だとか単なる音を形成しているだけではなく、なんらかの言語文化が確かに確立されていた。 病床に伏す少女は村でも働き者で有名だった。 そんな少女が、ここ数日全く何もしなくなった。 家族や長老に折檻を受けても改善されず、とうとう寝床から動かなくなった。話すことも食べることも億劫であるらしく、今や緩慢な動きで瞬きを繰り返すのみだ。 ある日の晩、衰弱していくばかりの少女を取り囲んで、家族を含む村の人間が集まった。 彼らは一晩神妙な顔を突き合わせ、夜明け前に長老に振り返った。長老は重々しげに一度頷いた。少女の両親、兄弟は顔を覆って俯いた。 この会議をもって、少女の死を神に捧げることが決断されたのだ。
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