10人が本棚に入れています
本棚に追加
ここはなくしものセンターです。
何かお困りですか?
「なくしものがあるんです。届いてませんか」
なくしものはなんですか?
「時間です。届いてますか?」
例えばどんな?
「ありもしない空想を画用紙いっぱいに描いた時間。咲きほこる桜に足を止めた時間」
なるほど。他にはありますか?
「あとはお金。楽しみに貯めた貯金箱の中身。お年玉袋から取り出した数千円」
それだけですか?
「健康を。どこにでも行けた足を。なんだって食べられた歯を。どんなに速く走っても壊れない心臓を。おかげでもうどこにも行けないの」
ええ、ええ。わかりますとも。
でも、それだけじゃない。
「夢も。夢もなくしました。将来お花屋さんになる夢を。あるいは空を飛ぶ夢を」
そうですね、その通り。
けど、それが本当になくしたものですか?
「愛。かつて無条件に注がれた愛。あの人に捧ぐと誓った永遠の愛」
一理あります。
でも、本当に?あなたのなくしものは本当にそれで合っていますか?
「わかりません。わたしは何をなくしたんでしょう」
いいえ、もうあなたはわかっているはずです。
「ぜんぶ、ぜんぶなくしてしまいました」
いいえ、いいえ。
それらは全て一つのものです。
さあ、わかりますか?
あなたが本当になくしたもの。
それはね。
最初のコメントを投稿しよう!