なくしものセンター

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ここはなくしものセンターです。 何かお困りですか? 「なくしものがあるんです。届いてませんか」 なくしものはなんですか? 「時間です。届いてますか?」 例えばどんな? 「ありもしない空想を画用紙いっぱいに描いた時間。咲きほこる桜に足を止めた時間」 なるほど。他にはありますか? 「あとはお金。楽しみに貯めた貯金箱の中身。お年玉袋から取り出した数千円」 それだけですか? 「健康を。どこにでも行けた足を。なんだって食べられた歯を。どんなに速く走っても壊れない心臓を。おかげでもうどこにも行けないの」 ええ、ええ。わかりますとも。 でも、それだけじゃない。 「夢も。夢もなくしました。将来お花屋さんになる夢を。あるいは空を飛ぶ夢を」 そうですね、その通り。 けど、それが本当になくしたものですか? 「愛。かつて無条件に注がれた愛。あの人に捧ぐと誓った永遠の愛」 一理あります。 でも、本当に?あなたのなくしものは本当にそれで合っていますか? 「わかりません。わたしは何をなくしたんでしょう」 いいえ、もうあなたはわかっているはずです。 「ぜんぶ、ぜんぶなくしてしまいました」 いいえ、いいえ。 それらは全て一つのものです。 さあ、わかりますか? あなたが本当になくしたもの。 それはね。
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