ミスター・ダンデライオン

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私の腹の中にはダンデライオンが咲いている。 そう言っていたのは私の友人だった。 彼は真剣に、そして誇らしげによくそう話していた。 いつから彼が"そう"だったのか、厳密なことは私は知らない。彼の話によれば、ことの始まりは小さな事故だったらしい。 彼がまだ幼い頃、家の近所に公園があった。 その公園の隅に咲いていたのが、ダンデライオンの花だ。 その黄色い花はすでに綿毛になっていて、ほわほわと風に揺られては種を飛ばしていた。 幼い彼はその様子をたいそう気に入って、綿毛に息を吹きかけた。ふわりと漂い広がる綿毛を見て、彼の気分はますます高揚した。吹きかけては飛ばし、飛ばしては吹きかける。その繰り返しだ。 そうしているうちに、辺りは一面に綿毛が飛び交い、まるで真っ白な雪景色のようだった。綿毛に覆われた世界のみが、彼の視界に広がった。 彼が我も忘れて夢中になっていると、突然耳に違和感を感じた。 もぞりと鼓膜を掠めるような感覚。まるで耳の中に水が入った時のように、こもって脳に伝わる音。 とっさに彼は耳の穴に指を突っ込んだ。 するとざわざわと音が耳の中で響いて、一瞬激痛が走った。彼はあまりの痛みに耳を抑えてしゃがみこんだ。 そうしてしばらくうずくまっていると、痛みは徐々に引いていった。耳から手を離して顔を上げれば、辺りに漂っていた綿毛は消え失せ、いつもの公園に戻っていた。
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