ミスター・ダンデライオン

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彼が自分の体に変化を感じ始めたのは、なんとそれから十数年経過してのことだった。 私と彼は、互いに初めて働く会社でのいわゆる同期として出会った。趣味も合い、話も合い、基本的に馬の合う二人だった。私と彼はすぐに打ち解けた。 そんな中彼は、最近腹の中が妙にざわつくのだ、とこぼすようになった。それは出会って何度目かの春のことだった。 浮かない顔の彼に、なんらかの病気ではないかと言えば、それはありえない、と何故か確信めいた口調で返した。 そしてある日、彼は嬉々とした表情で私の元にやってきて、こう言ったのだ。 「私の腹の中にはダンデライオンが咲いている!」 満面の笑顔だった。 何を言っているのかわからなかった。 詳しく彼に尋ねると、前述の幼い思い出を語って聞かせてくれた。 つまり彼が言いたかったのは、幼い頃に耳から侵入したタンポポの綿毛が、腹の中で成長し花を咲かせたのだということだ。 そしてさらに彼は私にこう言った、「このダンデライオンの花は、私が長年にわたり育て上げた宝物だ。誇りに思うよ」と。 彼が本気でそう思っているのか、それとも冗談を言っているのか、私には判別がつかなかった。 それでも笑顔で嬉しそうに話す彼に、私は曖昧に頷き返すことしかできなかったのである。
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