ミスター・ダンデライオン

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その後の彼の勢いは、誰の目にも留まるものであった。 仕事での成果はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで好調だった。当時、営業成績で彼の右に出る者はおらず、誰もが一目を置く存在となっていた。 そんな彼が出世に出世を重ねたのは自然なことだった。彼は人生の伴侶を見つけ結婚し、三人の子供を授かった。車を買い、家を買い、休みの日は家族で出かけた。 順風満帆。誰もがうらやむ、絵に描いたような幸せな暮らし。 そして成功する度に彼は「私の中にはダンデライオンが咲いているからね」と、自慢げに話した。 これを多くに人はジョークだと受け取ったが、この頃には私は彼は本気でそう信じているのではないかと思うようになった。 彼の体内に本当にタンポポが咲いているのかはわからないが、少なくとも彼はそう強く信じているようだった。 信じる、という言葉ではまだぬるい。それは確信に近い感覚を持った自明の理、真実として、彼の中で君臨し続けた。 転機となったのは、会社に受けるようにと指示された健康診断だ。 彼はその検査で引っかかり、より精密な再検査を申し付けられた。そこで彼の胃に小さな腫瘍があるのが見つかった。 その話を聞いて、私は少なからず納得した。彼はその事実に気づいていなかったが、私の中ではもう答えは出ていた。 彼が話していたダンデライオンの正体は、1センチにも満たない腫瘍だったわけだ。
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