ミスター・ダンデライオン

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摘出しておいてはどうかと言う医者の申し出を、彼は断った。私からも勧めだが、彼は頑なだった。 その後もしばらく彼の容態に変化はないように見えた。しかし、実のところ彼の体調は思わしくなかった。日に日に疲れ果てていくのがわかり、心配だった。 そしてその数ヶ月後ついに、家族の強い勧めによって彼はもう一度検査を受けた。 案の定腫瘍が大きくなっていて、すぐに摘出しなければ危険な状態だと告げられた。それが上手くいかなければ、最悪の事態も覚悟しなくてはならないと、医者は固い表情で言い渡した。 その診断に彼の家族はもちろん、私もかなりのショックを受けた。 しかし、とうの本人がショックを受けていたのは別のことだった。 というのも、この検査の時にカメラで自分の腹の中を見たらしいのだが、彼の言うダンデライオンの花がどこにも見当たらなかったそうなのだ。 「私のダンデライオンがなくなってしまった」 そう肩を落として呟いた彼の目は、どこか虚ろだった。 周りはそれを手術前のナーバスだと解釈したが、実際はそうではなかった。 ダンデライオンの存在は、私からしてみれば最初から眉唾もので、正直彼がまだ信じていたことに驚いたわけだが、彼にとってはまさに一大事だった。
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