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「プライベートな話なんですが……」
そう切り出し、私を誘い出したのは関西から転勤してきたばかりの坂井快翔だった。
快翔。カイト。快く翔ぶ。
名前のとおり穏やかな笑顔が快い子だった。
人懐っこく、10歳年上の私に対してもなにも臆することなくこうして誘いをかける青年だった。
新任社員の歓迎会では私の隣に座り込み、地元岸和田のだんじり祭りを熱く語りだし、直属の上司でもある私にいきなり9月に長期の休暇願いを申し出てきた。
年に一度、あの祭りに参加しないと自分中に育ててきた大切なものをなくしてしまいそうなのだと訴えてきた。
大切なものって?
酔いの回った頭の中で声にならない問いかけをしていた。
頭の中の問いかけとは別に、夏期休暇を振替れば可能だと返答した。
黒目勝ちな瞳をキラキラさせて嬉しさを全面に出しては空になった私のグラスにビールを注いだ。
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