福引券

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「面倒かけたね。もしまた今度、赤い色の券を持ってくる人がいたら、その時もすぐに呼んでくれるかい?」 「あの…おじさん。その赤い券、何なんですか? お客さんは気づいてないみたいでしたけど、俺、それに『災引補助券』て書いてあるの、見ちゃったんですけど」  おじさんの顔色がまた変わる。笑みの消えた顔でじっと俺を見る。 「見た? 何を?」 「何って…その赤い補助券に、災…」 「何も、見てないよね?」 「いや…」 「見てないよね?」 「何も、見なかったです」  最終的にそう答えると、おじさんはまた笑顔を見せ、やりかけの仕事に戻って行った。  見なかったことにされた赤色の福引券…いや、災引券。あれがどんなお客さんに配られているのか、どこでくじを引いているのか、景品は何であるのか。  気になることは山程あるけれど、さっきのおじさんの態度でよく判った。あれは関わってはいけないものなのだと。  結局その後、あの赤い券を目にすることは二度とないまま、俺は今回の手伝いバイトを終えた。  バイト代が一昨年よりよかったのは、おじさん曰くの『大学生になったから、少し値上げしておいたよ』という理由のためだろう。口止め料じゃない筈だ…多分。  ちなみに、後でウチの親から聞いた話じゃ、おじさんの店には、性質の悪いクレーマーや、他のお客さんに迷惑をかける人、万引き犯とかが出没していたらいしいけど、去年からその数はかなり減ったらしい。といっても、またすぐにその手合いは出現するから、悩みの種だとおじさんは話していたそうだ。  なんとなく、『アレ』がどういう人に向けて配られたのか判った気もしたけれど、とにもかくにも、俺は何も見なかった。それで俺もおじさんも平和だ。 福引券…完
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