終わらない痛み

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大音量のステージの音の波にグレーのパーカーを着た男が立つと一斉に歓声が上がる。 マイクに向かい奇声を上げるカイ! 私は初めて見るカイの姿に釘付けになる。 がなるように、叫ぶように歌い始めたカイ。 そして耳を疑うような甘い歌声で囁くように歌う。 全身に雷が落ちたかの様な衝撃。 震えが走った。 顔にまで鳥肌が立った。 これが…カイ…。 歌は全部英語で全然理解できないのに、瞳から次々と涙が溢れ出た。 突然私の顔を覗き込む古着屋の店員。 「っ!大丈夫?」 大声で聞かれたけど…私の目はカイから離せなかった。 いつの間にかライブが終わって、私は人混みに流されぬ様にその場に立ち尽くした。 フロアの真ん中で呆然と立ち、溢れた涙を拭った。 「ねー、大丈夫?」 古着屋の店員に声を掛けられハッとした。 「あの…これ、カイに渡して!」 コロッケの入った袋を店員に押しつけ走り出した。 階段を駆け上り全速力で走った。 何故かはわからない。 わからないけど、走った。 泣きたいような、切ないような…湧き上がる不思議な感情に戸惑いながら走った。
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