終わらない痛み

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「カイ、お前いい加減にしろよ!」 「あ?」 「客と喧嘩すんなって言ってんの!ライブ出来なくなるぞ!」 ふんと鼻を鳴らして空の缶を壁に投げつけた。 「あー、腹減ったなー。」 「カイさん!俺何か買って来ますよ!」 バタバタと走り去るエイジを見送り冷蔵庫から缶ビールを取り出す。 缶ビール片手にライブハウスの階段を上る。 扉を開ければ湿った空気と雨の匂い。 「つまんねーなー。くそっ!」 ライブハウスの前で腰を下ろし残りのビールを飲み干す。 「カイ…」 見上げるとエミが怯えた顔で見下ろしている。 「今日うち来る?」 「あーどうだろな。気が向いたら行くわ。」 「そう…。」 エミは横に座るとカイの右手を握った。 「痛い?」 「……」 「帰ろう。手当てしないとギター握れなくなっちゃう。」 カイの右手を握って立ち上がるエミ。 無言で立ち上がるカイはそのままエミに手を引かれて歩き出す。 空からは霧雨が降り注ぐ。 「なんでお前俺のことほっとかねーの?」 「さあ…なんでかな。」 クスリと笑うエミはカイを優しく見上げる。 「壊れそうで…ほっとけないよ。」 「…あっそ。」 エミの長い黒髪は霧雨で湿っていて行き交う車のヘッドライトが当たる度に艶を帯びた。 カイはそれを無言で眺めた。 「なあに?」 「別に……」 家路を急ぐ人混みが時々肩に当たり噛みつきそうな目で威嚇するカイの手をぎゅっと握り締めるエミ。 ふと手が離れるとカイが若い2人組の男に飛びかかる。 殴りつけた右手の拳に血が滲み、エミは必死にカイの腕を掴んだ。 「やめて!カイ!もうやめて!」
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