秘密のコトノハ

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◇◇ 最初にそれを聞いたのは4月の半ば位だったって思う。 掃除の時間、話している数人の側で、一人で黙々と掃除していた仲井が呟いた。 「“カバやろ指示嘘”」 たまたま黒板掃除で近くに居た俺だけには聞こえて、『この人、何言ってんだ?』ってそれが最初。 妙に頭に残ったそれに少し経って閃いた。 逆さから読んだら “そうじしろやばか(掃除しろやバカ)” 悪態ではあったけれど、純粋に凄いと思った。 だって、瞬時にそんな風に言葉を逆さにして呟くなんて、誰でも出来る事じゃない。 それ以来、仲井の言動をさりげなく目で追いかける様になった。 最初に聞いた逆読みこそ悪態だったけど、悪口的なものはほぼなくて。 『…”痛い、カメか”』(カメ飼いたい) あまりにも真剣にぼそりと呟くもんだから、吹き出すのを賢明に抑えた事もあった。   基本、仲井は教室ではほぼ笑わないし喋らない。 だけど、用務員のおじさんの前では気を許した様な表情で微笑んで楽しそうにゴミの分別を手伝っていた。 …もし俺が逆読みが好きだつったら、俺にもあんな表情向けてくれるのかな。 ぼんやりそんな事を考え出した時だって思う。結構よくつるんでるクラスの女子数名に聞かれたのは。 「今気になってる子とかいないの?」 別に自惚れとかじゃなくて経験上、この手の質問は後々トラブルが起こる可能性があると知ってるから「特にいない」って今までは無難に答えていたんだけど。 咄嗟に仲井に近づくチャンスだって考えた。 それが…『賭け』。
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