49人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
眠れない夜を越えて迎えた朝は、涙でぐしゃぐしゃな私の顔とは対照的にスッキリとした晴天だった。
…今日からまた地味に生きていこう。
教室に入って自分の席につくと、机の中に一枚の封筒が入っているのに気が付いた。開けてみると一枚の桜色の便せん。
“用、小岩にかな”(中庭行こうよ)
窓際で談笑している最上君を見たら無駄な可愛い笑顔を返される。
…どういう事?
眉間にシワを寄せて睨んでそのまま目線を逸らしたけど。次の日、また次の日…途切れる事無く、『逆読みの手紙』が机の中に入れられている。
しかも
“リスク、幅とこの幹”(君の言葉は薬)とか
“石井、古賀、逆さのイカな”(仲井の逆さが恋しい)とか…
さながら口説き文句みたいな手紙が一週間も続いてさすがに私も無視出来なくなった。
今度は私が最上君の机の中に手紙を入れる。
『敵、ワニかな』(中庭、来て)
その言葉通りに中庭にやって来た最上君に手紙の束を掲げてみせた。
「これはどういう事でしょう」
「だって『話しかけるな』っつーから。」
そ、そう言う解釈?
いや、私は関わるな、と言いたかったわけで…
「大体、『好きになった』って聞かされて引き下がれると思う?」
真面目にそう答える彼にまたズキリと胸が痛んだ。
「そんなに…私をからかうのが面白いですか。」
俯いた途端に堪えきれない涙がこぼれ落ちる。それを隠すように最上君の掌が頬を覆って無理矢理顔を上に向けさせられた。
「俺は至って大真面目だけど?」
目元を指先でなぞって見えた最上君の真剣な眼差し。
「仲井と居たい、それだけ。」
私と…居たい?
何も言えない私に苦笑いを浮かべる最上君。
「…俺の事信じてくんない?」
その掌が離れた頬は触れた空気がやけに冷たく感じる
「この数週間で、結構近づけたって思ってたんだけど。」
去って行く背中がぼやけた。
…信じたいよ。
『賭けの対象にされていた』と聞いて悲しくて沢山泣いたけど、最上君を『嫌い』にはなれなかった。
今も、『逆読み』をして一緒に過ごしてくれた数週間にとても感謝してる。
だって、本当に毎日楽しかったから。
だけど、私は…こんなんだもん。
地味で、何もかもイマイチで。
『いい加減にしてくんない?』
…どうしても自信が持てない。
次の日から
『逆読みの手紙』は机の中に入っていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!