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◇
「奏、結局私達の勝ちだよね?賭け。」
手紙が入らなくなって三日目、昼休みに教室へ戻って来たら窓際で最上くんを囲むように女子が数人集まっていた。
「私達と一人ずつデートして、誰かを彼女にしてくれるんだよね?」
賭けに負けたら…そんな事を約束していたんだ。じゃあ、もし最上君が勝ったらどうなっていたんだろう。
「仲井」
背後から突然呼ばれて振り向いたら、最上君と仲の良い、麻生哉太が立っていた。
「えっとさ…出来たら奏の事、許してやってくれない?
あいつずっとしょげててさ…張り合いがねーったらありゃしねえ」
苦笑いを浮かべる麻生君に少し恐縮をしつつ答える。
「あの…許すも何も。
最上君、本当に優しかったから。私も楽しかったし。だから賭けの為だっとしても感謝してる位です。」
「仲井…」
あ、あれ?
麻生君が何か震え出した。
「お前、いい奴だな!」
ガシッと両手を握られる。
「そうなんだよ!あいつは優しくていい奴なんだよ!」
「はあ…」
「ほら、あいつモテるじゃん?普通に口説くとこの前みたいな事が何度も起こりかねないから。その防御策が賭けだったんだよ!」
防御策が…賭け?
「…あの。ちなみにこの賭け、最上君が勝つとどうなるんですか?」
「それは…」
麻生君が突然ひらめいた様に目を輝かせて白い歯を見せた。
「俺の口からは言えないな!」
…つまりどうなるかは知っていると。
「もし、知りたいなら仲井自身が確認してみれば?」
何故か得意げな顔で言った麻生君の後ろに
「哉太、お前声デカいわ。」
いつの間にかもの凄い不機嫌そうな最上君が立っていた。
「手、離せよ。」
麻生君の手を私の手からはぎ取る。
一瞬私に目をやるとフイッと背中を向けた。
そこに感じた寂しさ。
『確認してみれば?』
そうだね…確かめよう。
賭けの結果も、最上君の言葉を信じた先でどうなるのかも。
確かめなければ、私はきっと気持ちが宙ぶらりんのままになる。
そんなの良くない。
目線をあげると、震える足を一歩だけ頑張って進めた。
「あの!」
一度、大きく息を吸い込んでから、お腹に力を入れて口を開いた。
「『キス、嘘』!」
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