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◇
翌日から本当に最上奏とお昼休みを中庭で過ごすようになった。
だけど、突き刺さるような視線こそ浴びても、覚悟していた様な、直接文句を言われたり嫌がらせをされると言う事は無くて、世間は私が考えるよりもずっと大人なんだって、自分の思い込みを反省した。
彼についての印象もまた然り。
口が悪い時があるけど、悪気はなくて。
『本当に毎日こんな事してるんだ』
あれも、実は『こんな大変な事を毎日やっているのか』と言う感心だったらしい。
実際、あれから時々私と一緒にゴミの分別を手伝ったりもした。
「”日のキツき中は馬が楽さ”どう?」
「…って事は”桜が舞う儚き月の日”。凄い…綺麗。」
「だろ?閃いた時、『俺すげーわ!』って自画自賛した。」
人懐っこさと明るいオーラは話す前の印象通り。誤解を生んだとしてもすぐに解く事が出来る気がする。
「仲井の弁当、いつも美味そうだよね」
「そ、そう…かな。私、あんまり色彩とか考えないで作っちゃってるよ?」
「え?!仲井の手作り?!」
「うん…まあ…」
「すげっ!」
私なんかの些細な話でもちゃんと耳を傾けてくれて相手に合わせて自然と居心地の良い空間を作れる凄い人。
一緒にお昼を食べる様になって、皆がこの人を好きだと思う理由もよくわかった。
いつも通りお弁当を広げた途端、最上奏が「頂き!」と唐揚げを一つぱくりと口に入れる。
「あーマジ美味い!弁当食いたい。交換してよ。」
ここの所、毎日そう言うな。
最上君はいつも購買のパンだから、私も美味しいパンが食べられて嬉しいけど…
「明日は最上君の分も作って来ようか?」
「え?」
「こんなんで良ければ、だけど。」
「マジで?!俺専用?やった!えーっと…”釧路よ、閉める日”!」
「…”昼飯、よろしく”」
「うん、楽しみにしてる。」
私の髪をぐしゃっと撫でながら嬉しそうに笑う彼にキュウッと気持ちが苦しくなった。
…なにバカな事考えてるの?
報われない想いを抱えたって、何一つ良い事なんて無いに決まってる。
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