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自分に釘を何度も刺しながら二人分のお弁当を作った翌日。
「仲井、悪い。先生に呼び出されたから職員室に寄ってから行くわ。」
昼休みが始まった早々、友達の麻生哉太(かなた)と二人で教室を出て行く最上君。
じゃあ先に行って新作でも考えていようかな、とお弁当を持って立ち上がった途端に最上君とよく一緒にいる女子数名が寄ってきた。
「仲井さん、ちょっといい?」
連れて行かれた場所は体育倉庫の裏側で、壁に私を追いつめると取り囲む。
「あのさ、いい加減にしてくんない?」
「手作り弁当なんか作っちゃってマジ、キモイんですけど。」
お弁当を反射的にかくまったけど、多勢に無勢。いとも簡単に取り上げられて、無惨にも地面にぶちまけられた。
「私達はね、あんたが可哀想だから忠告してやってんの。奏があんたの事相手にしてんのは、賭けの為だから。あんたが奏にオチたら奏の勝ち。オチなかったらあたしらの勝ち。」
「あー…っとさ。これはルール違反だよね。」
そこにバツの悪そうな不機嫌な顔で最上君が現れた。
地面に散らばるお弁当を丁寧に拾いあげると「だ、だって…」と言い訳を始めた女子達を一瞥して私の腕を掴む。
「…今度ルール違反したら許さねーから。」
たじろぐ女子達を残して私を引っ張って歩き出して、中庭までつくと黙って俯いている私を覗き込んだ。
「ごめん、あいつらにはちゃんと話しておいたんだけどさ…。」
…呼び出しされた事なんかどうでも良い。
最上君とお昼を食べると決めた時からそれなりに覚悟はしていた事だから。
問題はそこじゃない。
「私で賭け…してたって…」
問いた途端、クッと力がこもる私の腕を捕まえている彼の指先。
それに淡い期待が生まれた。
きっと否定してくれる。訳があってそういう風に誤解を生んでるんだって…
「…うん。賭けてた。仲井が俺を好きになるかどうか。」
初夏の風が真顔で私を見つめる最上君の猫っ毛の髪を少し掬った。
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