第六章 嵐の夜に

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「袈裟丸!」  少ない光で探してみたが、どこにも袈裟丸の姿がない。  ここで流されたら、海しかないのだ。 どこにも辿り着けない。 「袈裟丸!」  俺は、波の中、袈裟丸に近寄ろうとしていた。 それを、時季が抱えて止める。 「時季、離せ!」 「ダメです、ここが限界」  仲間を助けるのに、限界なんてない。 俺が時季を振りほどくと、今度はがっちり掴まれた。 「俺は無事。 陸地側に流されたので、助かりましたよ……」  良かった。 俺が袈裟丸にハグすると、袈裟丸は時季も引き寄せていた。 「無事ですが、確かに、今動くのは無謀でした」  がははと袈裟丸が豪快に笑っていた。 船なんかよりも、袈裟丸の方が大切であった。 船は又買えばいいのだ。 でも袈裟丸には、代わりはいない。
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